お口の働きのことを口腔機能(こうくうきのう)といいます。その機能の1つに食事があります。水や食べ物を飲みこむ際、飲み込めなくなったり、肺の方へ行ってしまったりすることを「嚥下障害(えんげしょうがい)」と云い、食物や唾液が肺に入ってしまうことを「誤嚥(ごえん)」と呼びます。誤嚥された食物や唾液内の細菌が肺に入ると炎症が起きることがあり、その症状が悪化すると誤嚥性肺炎が起こります。私たちは普段、何気なく食べたり飲んだりしていますが、高齢になるにつれて誤嚥する確率が高くなります。寝たきりの方のほとんどが誤嚥をしているという報告もあり、繰り返し肺炎を発症すると口から必要量が食べられなくなります。

なぜ誤嚥が起こるのでしょうか?それは咽頭部(いんとうぶ)の反射が加齢とともに悪くなるからです。私たちは、無意識にいつも呼吸をしています。空気を吸うと自動的に気管支を通って空気は肺に運ばれます。同じように食物を食べた場合も、食道を通って胃に運ばれます。この調節を行っているのが、咽頭部の反射です。年齢が高くなるにつれてこの機能が衰えることがしばしば見られます。嚥下反射が悪くなると、食道に嚥下されるべき食物が咽頭部に溜ってしまい胃に落ちるはずが、間違って気道の方に落ちてしまうために誤嚥性肺炎が起こります。健康な高齢者の方々からも「最近むせやすい」「味がわからない」「口が渇く」とよく聞きます。その2割くらいが、近い将来、誤嚥性肺炎に移行する危険性があると言われています。一般的には75歳を越えると何らかの初期症状を認めるようです。

介護保険を利用している方の原疾患は、脳卒中・認知症・神経疾患(パーキンソン病)・高齢による衰弱・関節疾患で占められます。これらの疾患は後に嚥下障害を起こしやすく、脱水・窒息・低栄養を併発して、ADL(日常生活動作)が低下してくると誤嚥性肺炎を繰り返します。抗生物質の効きも悪くなります。口から食べられなくなることで、点滴やチューブ栄養になっている方も居ます。これでは食事の楽しみを奪ってしまうことになり、本人にとってもご家族にとっても非常に辛いことです。

肺炎になる方の92%が65歳以上(松戸市の人口のおよそ4人に1人が65歳以上)であり、80歳くらいになると死亡原因の上位になるといわれています。高齢者の肺炎は口の中の細菌でおこり、65歳以上の人の約半数が夜眠っている間に唾液を肺に飲みこんでしまっています。嚥下障害から引き起こされる誤嚥性肺炎を予防していくことが、これからの高齢社会の課題だと考えています。